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東京地方裁判所 昭和59年(ワ)11827号 判決 1985年9月18日

原告

王子信用金庫

右代表者代表理事

大前孝治

右訴訟代理人弁護士

萩原平

古川晴雄

中村美智子

右訴訟復代理人弁護士

行木武利

被告

宮本大祐こと

李仁秀

右訴訟代理人弁護士

野崎研二

主文

被告は、原告に対し、別紙物件目録(四)記載の建物のうち別紙図面斜線表示の柱部分を除いた部分を収去せよ。

訴訟費用は、被告の負担とする。

この判決は、原告において金一〇〇万円を担保として供するときは、仮に執行することができる。

事実

第一  求める裁判

一  請求の趣旨

主文と同旨の判決並びに仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

第二  主張

一  請求原因

1(一)  原告は、昭和五三年三月六日、鈴木友助との間で、同人所有の別紙物件目録(一)記載の土地につき左記内容の根抵当権設定契約を締結し、同月一〇日東京法務局北出張所受付第七一五八号をもつて右根抵当権設定登記を経由した。

(1) 極度額 三〇〇〇万円

(2) 債務者 富士フード有限会社

(3) 被担保債権の範囲 信用金庫取引による債権、手形上、小切手上の債権

(4) 元本確定期日 定めない

(5) 根抵当権者 原告

(二)  右根抵当権につき、原告は、昭和五五年七月三一日鈴木友助を相続した鈴木敏子との間で、極度額を五六〇〇万円とする変更契約を締結し、同年八月一五日東京法務局北出張所受付第二六二〇四号をもつて右根抵当権変更登記を経由した。

(三)  原告は、昭和五三年六月一二日、富士フード有限会社(以下富士フードという。)との間で、1の根抵当権との共同根抵当として、同会社所有の別紙物件目録(二)記載の建物につき、1と同一内容の根抵当権設定契約を締結し、同月一三日東京法務局北出張所受付第九四九七号をもつて右根抵当権設定登記を経由した。

(四)  (三)の根抵当権につき、原告は、昭和五五年七月三一日、富士フードとの間で、極度額を五六〇〇万円とする変更契約を締結し、同年八月一五日東京法務局北出張所受付第二六二〇四号をもつて右根抵当権変更登記を経由した。

2  原告は、富士フードに対し、左のとおり貸付をした。

(一) 貸 付 日 昭和五六年八月三一日

貸付金額 二二八〇万円

弁済方法 昭和五六年九月から昭和六六年二月まで毎月二六日限り金二〇万円宛。

利   息 年一〇・四パーセントの割合で毎月二六日限り支払う。

遅延損害金 年一四・五パーセント

特   約 債務者が支払を停止したときは当然期限の利益を失う。

(二) 貸 付 日 昭和五六年八月三一日

貸付金額 三七七〇万円

弁済方法 昭和五六年九月から昭和六七年二月まで毎月二六日限り金三〇万円宛(但し最終回は金二〇万円。)

利   息 年一〇・四パーセントの割合で毎月二六日限り支払う。

遅延損害金 年一四・五パーセント

特   約 債務者が支払を停止したときは当然期限の利益を失う。

(三) 貸 付 日 昭和五六年一二月二八日

貸付金額 二四七万八〇〇〇円

弁 済 期 昭和五七年四月一〇日

利   息 年九・二五パーセント

遅延損害金 年一四・五パーセント

3  富士フードは、昭和五七年一月二〇日手形不渡を出し、支払を停止した。

4  原告は、昭和五七年四月二七日1(二)、四の根抵当権に基づき、別紙物件目録(一)、(二)記載の各不動産につき東京地方裁判所に競売申立をなし、同日同庁により競売開始決定を得た(同庁昭和五七年(ケ)第五五二号)。

5  右競売申立及び開始決定により、2の各貸付債権額は、2(一)の残元本一一六一万七六九三円、遅延損害金五六〇万二九一〇円、5(二)の残元本三六二〇万円、遅延損害金一七四五万八三一七円、5(三)の残元本二四七万八〇〇〇円、遅延損害金一一一万八二九〇円に達しており、これが前記根抵当権の担保すべき債権として確定した。

6(一)  ところで、別紙物件目録(二)記載の建物は、鉄骨造陸屋根高床式三階建の構造を有し、右高床部分は支柱のみで吹きぬけの構造となつていた。

(二)  ところが、昭和五七年五月一四日、原告不知の間に、宮本千松が右建物の高床部分に加工し、倉庫として新築し、これを前記建物とは別個の区分所有の対象として同年五月二〇日所有権保存登記手続をした。

この結果、同日別紙物件目録(二)記載の建物にかかる不動産登記簿は閉鎖され、新たに開設された登記簿上、右建物と新築された倉庫とから成る四階建の一棟の建物が表示され、別紙物件目録(二)記載の建物は右一棟の建物の二、三、四階部分に繰上げた別紙物件目録(三)記載のとおり表示され、右新築倉庫は、右一棟の建物の一階部分として別紙物件目録(四)記載のとおり表示された。

現在、別紙物件目録(四)記載の建物の所有権は、宮本千松の父である被告が有しており、宮本千松は、昭和五八年三月九日右建物につき真正な登記名義の回復を原因として東京法務局北出張所受付第六五七八号をもつて被告のために所有権移転登記を経由し、更に被告は、右建物につき、昭和五八年一〇月一日宮本千松に対し、同人を権利者とする抵当権を設定し、右出張所昭和五九年三月二八日受付第八九五号をもつて右抵当権設定仮登記を経由した。

7(一)  別紙物件目録(一)(二)記載の各不動産の担保価値は昭和五五年七月三一日当時約一億円以上あり、原告の先順位に被担保債権額三一三五万円の第一順位担当権(権利者雇用促進事業団)が設定されていることを考慮しても、十分原告の根抵当権の被担保債権は担保される状態であつた。

(二)  ところが、別紙物件目録(四)記載の建物が存するに至つたことにより、同目録(三)記載の建物は、同目録(二)記載の建物当時と比べ、建物の有する収去されない場所的利益相当額及び建物の評価額の両面において著しい減価を蒙り、昭和五九年六月二一日裁判所の競売手続において別紙物件目録(一)記載の土地と、同目録(三)記載の建物の一括最低売却価額が七九八一万円と定められたが、右価額によつても売却が危ぶまれ、現に昭和五九年八月二一日から同月二八日の間に実施された入札には買受人が現われなかつた程である。

(三)  別紙物件目録(一)記載の土地及び同目録(三)記載の建物に原告の先順位として存する雇用促進事業団の抵当権の被担保債権は、昭和五三年六月一二日、同事業団から債務者富士フードに対して貸付けられた三一三五万円の貸金債権である。右消費貸借においては、弁済方法は昭和五三年以降毎月の分割払、利息年六パーセント、遅延損害金年一四・六パーセント、特約として債務者が手形交換所の取引停止処分を受けたときは当然期限の利益を喪失する旨各約定されていた。富士フードは、昭和五七年一月二五日手形交換所の取引停止処分を受け、期限の利益を喪失した。従つて、右事業団の被担保債権としては、元本残額二三二五万九〇〇〇円とこれに対する年一四・六パーセントの割合による二年分の遅延損害金六七九万一六二八円の合計三〇〇五万〇六二八円が残存する。

(四)  原告の現に有する被担保債権額は、5記載のとおりであり合計は1(二)、(四)の根抵当権極度額の五六〇〇万円を上回る。

仮に、別紙物件目録(一)記載の土地、同目録(三)記載の建物が前記最低売却価額をもつて売却されたとしても、第一順位の抵当権に対する配当の残余では、原告の1(二)、(四)の根抵当権の被担保債権は、その極度額の限度でも満足されない。

従つて、原告の有する右根抵当権の担保価値が、別紙物件目録(四)記載の建物の存在によつて害されていることは明らかであり、右建物は原告の根抵当権を侵害している。

8  よつて、原告は、被告に対し、1(二)、(四)の根抵当権に基づく妨害排除請求として、別紙物件目録(四)記載の建物について、同目録(三)記載の建物の支柱である別紙図面の斜線部分を除いた残余部分の収去を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1のうち、別紙物件目録(一)記載の土地、同目録(二)記載の建物の各所有、相続関係、各登記存在の事実は認めるが、その余の事実は不知。

2  同2、3の事実は不知。

3  同4の事実は認める。

4  同5の事実は不知。

5(一)  同6の事実は認める。但し、別紙物件目録(四)記載の建物の建築経過は後記のとおりである。

(二)  別紙物件目録(四)記載の建物は、昭和五七年二月初旬頃、富士フードが建築したものである。

これを同月一五日宮本健一が富士フードから買受けたが、その際買主側で直接表示、保存登記することに合意した。

宮本健一は、同年五月一日、右建物を被告に代金九五〇万円で転売し、被告において同日新築として同月一四日表示登記、同月二〇日受付で被告の息子名義で所有権保存登記を各経由した。被告は、更に昭和五八年三月九日受付で自己への所有権移転登記をした。

(三)  本件のような事実関係では別紙物件目録(四)記載の建物の存在は、抵当権の侵害にならない。

6(一)  同7(一)の事実は不知。

(二)  同(二)のうち、昭和五九年六月二一日裁判所の競売手続において、別紙物件目録(一)記載の土地と同目録(三)記載の建物の一括最低売却価額が、七九八一万円と定められたことは認めるが、その余の事実は不知。

(三)  同(三)、(四)の事実は不知。

第三  証拠<省略>

理由

一原告の根抵当権及び被担保債権の存在について

1  請求原因1のうち、昭和五三年三月六日、鈴木友助が別紙物件目録(一)記載の土地を所有していたこと、昭和五五年七月三一日、鈴木敏子が右土地を鈴木友助から相続していたこと、昭和五三年六月一二日、富士フードが別紙物件目録(二)記載の建物を所有していたこと、右土地について、東京法務局北出張所昭和五三年三月一〇日受付第七一五八号をもつて、極度額三〇〇〇万円、債権者富士フード、被担保債権の範囲信用金庫取引による債権、手形上、小切手上の債権、根抵当権者原告とする根抵当権設定登記が、右建物について、同出張所同年六月一三日受付第九四九七号をもつて、右と同一内容の根抵当権設定登記が、右土地建物について、同出張所昭和五五年八月一五日受付第二六二〇四号をもつて、極度額を五六〇〇万円とする右各根抵当権変更登記が各経由されていること及び請求原因4の事実は当事者間に争いがない。

2  <証拠>によると、請求原因1のうち前記争いのない事実以外の事実、同2、3の各事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

3  右2の認定事実によれば、原告は、別紙物件目録(一)記載の土地、同目録(二)記載の建物(但し、この建物は、後述のとおり、現況が既に変更されている。)にかかる根抵当権の確定被担保債権として、請求原因5記載の金銭債権を有するものということができる。

二根抵当権の侵害について

1  請求原因6のうち、別紙物件目録(四)記載の建物の建築年月日、建築主を除いた事実及び同7(二)のうち、別紙物件目録(一)記載の土地及び同目録(三)記載の建物につき昭和五九年六月二一日裁判所の競売手続において、一括最低売却価額が七九八一万円と定められた事実は当事者間に争いがない。

2  <証拠>によると、次の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(一)  別紙物件目録(二)記載の建物は、もと一棟の建物であり、うち高床下の部分は駐車場とされていたが、昭和五七年五月頃、何者かにより右部分の支柱間に外壁内壁等により囲い仕切りがつけられ、右支柱とともに倉庫として別紙物件目録(四)記載の建物が建造された。現在は更に店舗に変えて使用されている。

(二)  別紙物件目録(四)記載の建物の出現により、別紙物件目録(二)記載の建物はその高床下の部分が逸出し、現況において一棟の建物そのものからその一部分に性質を変えた他、従来専有していた場所的利益のうち約四分の一即ち四〇〇万円以上を失つている。

別紙物件目録(一)記載の土地及び同目録(三)記載の建物につき進行中の裁判所の競売手続においては、同目録(四)記載の建物出現による減価も考慮して一括最低売却価額を七九八一万円と定められたが、これにより実施された昭和五九年八月二一日から同月二八日の間の入札に応ずる者がない等買受人が現われないで現在に至つている。

(三)  別紙物件目録(一)記載の土地及び同目録(二)記載の建物には、原告の先順位に抵当権者雇用促進事業団の抵当権が昭和五三年六月一二日物件所有者により設定され、同月一三日受付で右登記も経由されている。右被担保債権は、右事業団が債務者富士フードに同月一二日貸付けた金三一三五万円の貸金債権であるが、右貸金の弁済方法は毎月末日の分割払、利息は年六・五パーセント、遅延損害金は年一四・六パーセント(右利息、遅延損害金の約定は登記されている。)手形交換所の取引停止処分を受けたときは債務者は当然期限の利益を喪失する旨の約定があつたところ、富士フードは、昭和五七年一月二五日手形交換所の取引停止処分を受けた。

3  以上の事実に基づき、原告の根抵当権侵害があつたかどうかにつき検討する。

(一) 抵当権は、本来目的不動産の占有、用益を奪うものではないから、抵当権設定者又は第三者において、抵当不動産をその通常の用法に従つて用益することは、抵当権に対する侵害にあたらないものというべきである。

しかし、たとえ、抵当不動産の用益に関連する行為であつても、これが通常の用法を越えて目的不動産の滅失毀損、抵当権の存在又は行使にとつて障害となるものを生じさせる等し、しかもこれにより抵当権の把握している担保価値に不足を生ずる虞を生じさせるものであるときは、右行為が抵当権設定者又は第三者のいずれによりなされたか又は障害物が何人に属するかを問わず、右行為の禁止又は、これにより生じ抵当権の存在又は行使に障害となつているものの排除を求めうるものと解すべきである。

(二)  本件において、別紙物件目録(四)記載の建物を建築し、これを区分所有の目的としたことは、同目録(二)記載の建物に対し、本来右建物の一部分であり、駐車場用とされていた高床下の部分を右建物から逸失させ、しかもこれにより一棟の建物の専有による自由な利用を不可能にさせる点で、建物自体の物理的現状を変更し、その価値を大きく損うばかりではなく、右建物の専有していた場所的利益のうち約四分の一相当分を右建物から奪うことにより、右建物の有する交換価値を著しく減少させたものである。右交換価値減少等の結果は、別紙物件目録(四)記載の建物の存する限り存続する。右は、同目録(二)記載の建物の通常の用法を越える行為により招来されたものというべきである。

次に、別紙物件目録(一)記載の土地及び同目録(三)記載の建物の価値は最大限合計しても七九八一万円に過ぎないものというべきである。他方、右土地建物にかかる原告の先順位担保権たる雇用促進事業団の抵当権の被担保債権は、残元本二三二五万九〇〇〇円、右残元本に対する遅延損害金は年一四・六パーセントの割合で昭和五七年一月二三日以降生じているので、最後の二年間分は六七九万一六二八円、右合計三〇〇五万〇六二八円であり、原告自身の担保されるべき債権額は根抵当権の極度額同額の五六〇〇万円であり、右二者の担保されるべき債権の合計額は、八六〇五万〇六二八円である。従つて、別紙物件目録(四)記載の建物の存する状態下で、原告の別紙物件目録(二)記載の建物(現状では同目録(三)記載の建物)についての根抵当権の担保価値には不足を生ずる虞が生じているものというべきである。

(三)  よつて、前記行為により生じた別紙物件目録(四)記載の建物の存在により、原告の別紙物件目録(二)記載の建物(現状では同(三)記載の建物)についての根抵当権は現に侵害されているものというべきであり、原告は、右根抵当権に基づき別紙物件目録(四)記載の建物の現所有者たる被告にその収去を求めうるものというべきである。

三よつて、原告の被告に対する本訴請求は、理由があるから認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官高田泰治)

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